・「策」の意味
今回のポイントの一つは、春日信達を利用した調略の後味の悪さに、違和感を拭いきれない信繁でした。私個人は、前回の昌幸の策略に対して、それほどの嫌悪感は感じませんでした。その理由は、出浦さんのセリフにもあったように
「春日信達は自業自得。上杉家を裏切ると決心したのは他でもない、春日信達自身だ」
ということです。
真田は、春日信達の裏切りの後押しをしましたが、裏切ること自体は他ならぬ春日信達自身です。なので、春日信達の叛意を利用した昌幸の策略は、人道的な策ではありませんが、それほど悪どい「奸計」でもない、と思うわけです。
しかし、まだ若い信繁には、そこまで割り切って考えることは難しいでしょう。信繁は、真田と同じ旧武田家臣として共通するものを感じていましたし、だからこそ、春日信達を味方に引き入れることに本気になれたんだと思います。
そんな信繁の苦悩を救ったのが、梅とその兄・作兵衛でした。梅のセリフに
「策とは何か?」
という問いに対して、自分が納得できる答えを信繁は見つけています。歴史上、無名の女性(おそらくは、作者が作った架空の女性)との会話で、主人公の考え方が変わる、というストーリーに、違和感を感じた人もいたかもしれませんが、私はむしろ自然な流れではないか、と思います。
現代に生きる男性諸君の多くが感じていることだと思いますが、女性の発言力は弱いように見えても実は強いんです。個人事業主や中小企業経営者を相手にしている営業マンの方なら、お客さんの奥さんが、影の支配者となっている事例は少なくないことを知っていると思います。歴史の表に出てこないだけで、歴史上の有名人物(男性)の意思決定に、女性の意見が様々な形で影響している
方が、むしろ自然なのです。
・この頃の真田家の動員可能兵力はどれくらい?
もう一つのポイントは、今後の信濃の行く末を考える昌幸でした。当初は、国衆の寄り合いによる独立国、を提案していましたが、出浦さんの後押しもあり、密かに信濃・上野の戦国大名になることを決意します。
この時、昌幸が気にしていたのは、自分に大名にふさわしい力量があるのか、という問題でした。確かに、これまで中小企業の社長をしていた人間が、ある日突然大企業の社長になるチャンスが舞い込んできたとき、憧れてはいても、いざそのポジションに就くとしたら逡巡してしまうと思います。
それは理解できるのですが、私が気になったのは、この頃の真田家の実力(特に軍事力)でした。真田は確かに小県の国衆の一人ですが、他の国衆と明らかに異なる点があります。それは、上野の北部に2か所の城(岩櫃、沼田)を持っていることです。真田の本領に、岩櫃・沼田の領地も保有しているのであれば、小県の室賀のような国衆よりも、一回りも二回りも大きい力を持っていそうな気がします。その力を使えば、信濃国衆のトップに君臨する戦国大名になることは、さほど難しくもないのではないか、と思うわけです。
というわけで、第9回もなかなか面白い内容でした。
次回が楽しみです!